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SPECIAL対談 上東丙唆祥×高木優一
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簡単に「便利が買える」時代

高木優一:
上東さんは遺品の整理だけではなく、生前整理もされていますよね。
上東丙唆祥:
はい。息子の家族と同居するとか、施設に入るからというので、2LDKの家から狭い6畳一間の部屋に住まなければならないといった場合、荷物をぐんと減らさなければなりません。そのときに、間違った物を持ってきてしまう、必要な物を処分してしまうと、その人の精神面に多くの影響が出てきてしまいます。他者が勝手に持っていく物を選んでしまうと、その後脱力感、無気力感に襲われてしまいます。施設に入ってから、あるいは病院に入院してからすぐに亡くなるお年寄りが多いのは、心の環境が変わってしまうからなんですね。ですから、本人に確認しながら選別していくわけなのですが、そういう点で見れば、我々の仕事は非常に非効率ですね。引越屋みたいにさっさと段ボールに物を詰めて、運んで「はい終わり」というわけにはいきません。高木さんの仕事も同じですよね。
高木優一:
おっしゃる通り。めちゃくちゃ非効率でさらにタチが悪いですよ。これだけ一生懸命動いて、結局銀行が抵当権を消さないで終わり。全てが徒労。そんなことはしょっちゅうです。
上東丙唆祥:
依頼されて部屋や物の整理をしていると、その持ち主の心の状態が見えてきます。社会に振り回されず自分をきちんと見つめることができている人は、部屋もきれいだし実に質素です。また、自分で整理をせずに私たちのような外の人間に頼んでいる人は、結局、便利を買っているのです。実は便利の先には、もっともっと便利になりたいという欲求があります。便利さを買うために、時間あるいは命と言っていのかもしれませんが、それを売って対価としてお金をもらい次々と便利さを買っているのです。逆に、たとえば、お坊さんは決して便利さなど買いません。掃除とか厳しい修行だとか、自分の内側に目を向け精進して、不便さが達成感を生むということを実践することで、徳が積まれていくのです。そう考えると、便利さを売り物にしている我々のような商売が本来はあってはならない、とも思えてきます。
高木優一:
なるほど。知恵を使い不便さを享受することで、人間は何かを得られるということですね、本日はありがとうございました。

photo by naokichi hasebe

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