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SPECIAL対談 福原直樹×高木優一
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わざわざ銀座にいかなくても、これだけの鮨が食べられる

高木優一:
鮨の素材の売買では、我々が考えているよりはるかに壮絶なプロとプロの駆け引きが行われているんですね。
福原直樹:
当初、妻からは原価率を考えると、こんな高い仕入れ値じゃ商売にならないと言われたりもしましたが、私はいずれこの店には客がつくと確信していましたし、何とか食ってはいける状況でしたから、今は原価率が悪くてもいいと説得しました。そして、思惑通り、少しずつ口コミで「あそこ、美味しいらしいよ」と評判が立って遠くからもお客さんが来てくれるようになりました。
高木優一:
梶が谷でこんな上質な鮨が食べられる、と。
福原直樹:
はい。でも、今、地元のお客さんは2~3割ぐらいですかね。
高木優一:
あとのお客さんは、わざわざ東京や横浜から来るんですか。
福原直樹:
そうですね。「近くに美味しいお鮨屋さんがないんですよ」っていう話をされます。たまプラーザ、田園調布、自由が丘あたりから来られるお客さんからも、そういう声が上がります。「でも銀座に行けばあるでしょう」と返すと、「仕事じゃあるまいし、わざわざ銀座まで行きたくない」って言いますね。
高木優一:
銀座だと商談で鮨店を使うイメージですよね。くつろいで食事を楽しむという感じにはならないかもしれません。
福原直樹:
店をオープンしたときに、こんな場所で1万5千円の鮨を誰が食べに来るんだ、と周りからは懐疑的に見られ、半年もたないとも噂されていました。でも、私は絶対にウチを見つけてくれる人がいると信じていました。
高木優一:
そして、今ではなかなか予約を取れない店になってしまったというわけですね。
福原直樹:
修行時代に親方から「お前、将来どんな店をやりたいんだ」って聞かれたことがありました。「はい、お客がいっぱい入る店がいいですね」と答えますと、「いくらぐらいの値段にするんだ」とさらに聞かれ、「いや、まだそこまで考えていません」と口ごもります。そしたら、「仮に1日10万円稼ごうとすれば、千円のネタだったら100人の客を相手にしなければならない、けれども1万円の鮨ならば10人でいい。2万円なら5人だ。それが鮨屋にはできるんだから安売りはするな。安売りをすればお前も安っぽい人間になるぞ。だが、あまり高くすると偉そうな人間になる。そこをちゃんと考えろ」と言われました。

photo by naokichi hasebe

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